引っ越しをするかしないか、最後まで俺を悩ませていたのはソファーの存在だった。
近所に住んでいたバンビローシ諫山が昨年引っ越す際に、上質なソファーを捨てようか悩んでいる と言っていたので、勿体無いと思った俺は既にソファーを1脚持っているのにもかかわらず、思い切って諫山のソファーを引き取る事にした。
雨に濡れた捨て猫を拾ってやるような優しい男でありたい という想いがここで俺を突き動かしたのだ。
しかしソファーを2脚も置いておける部屋でない という揺るぎない事実はそんな想いに動じる事はなく、仕方なしに俺は元々あったソファーをベランダに出す事にした。
俺は罪悪感を感じながらも、野晒しにされ外に放置されたソファーを見てみぬふりをしながらそれからの日々を過ごしていた。
しかし、引っ越すとなればそれをそのままにしておく訳には行かない。
粗大ゴミとして業者に取りに来てもらうか、区の収拾所に持って行かなくてはならない。
金はかかるし面倒なことこの上ないのだが、ソファーを捨てるのが面倒だから引っ越さない というのもなんだか馬鹿らしかったので俺は意を決してソファーを区の収拾所に持って行く事にした。
引っ越し当日、弟の車でソファーを移送する手筈になり後部座席に無理矢理ソファーを詰め込み収拾所へ向かう。
その時、俺の心には言いようのない不安があった。
その不安は大まかに言えば、慣れない都会を弟の車で走る事なのだが、そんな一言で片付けられない程に複雑な事が絡み合い事態が悪化する気がしてならなかったのだ。
とはいえ、弟の車にはカーナビが付いているし、俺も念の為地図を持っている。距離にしてたった5キロ程度の道のりでそんなに危惧する事もないか と自分を納得させ、弟の車は発進した。
弟は新潟の片田舎とは違う車外の景色を眺めながら悠々と運転していた。
すると、車内に流れるBGMが一瞬途切れて
「ルートから外れました。ナビを終了します。」
というアナウンスが流れた。 弟は方向音痴なのだ。
その後も車を走らせるが幾度となく同じアナウンスを聞く事になった。
引きつる俺の顔を尻目に、弟は相変わらずナビを見ずに都会の景色に見とれながら運転していた。
車内には徐々に険悪なムードが漂い、なんとか1時間かけ、ようやく収拾所の付近にたどり着きナビの音声案内が終わった。
ここからは俺の持つ地図が頼りの綱になる。
(俺)「ここを真っ直ぐ行けば収拾所だけど、行き過ぎると高速道路に乗るから気をつけろよ」
危機感のない弟に少し語気を強めて言う。
(弟)「いちいち言わなくてもわかってるよ!」
苛立ったように返事をする弟。
(俺)「そろそろ曲がらないと収拾所通り過ぎるぞ!」
(弟)「だからわかってるって!!」
「ポーン」
俺達とソファーを載せた車はETCレーンをくぐり高速道路に入った。
弟は車窓から遠くに見えるレインボーブリッジを少し恥ずかしそうな顔をしながら眺めていた。
【続く】
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